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『台湾書店百年の物語ー書店から見える台湾』刊行記念インタビュー(有河書店・詹正德さん)への補足

有河書店・詹正德さんに、台湾の書店と取次事業についてお話を伺いました。

出版業界で働いていない方には専門的な内容も含まれているため、こちらで補足を記しております。

「取次ってなんだ?」という場合でも、概ねの状況は理解できるように心がけて書いていますので、よろしければご覧ください。

 

なお、日本の出版業界についての説明に間違いはありませんが、台湾の業界については聞いたこと、状況からの推測などがふくまれますので、その前提で捉えていただければ幸いです。

同内容の音声のみ版はこちらから。


日本の出版流通については、

出版社→取次→書店

というルートでの流通が一般的です。「取次」という名称は業界用語で、一般的には「卸売業」のことを指します。

また本は委託商品となり、例外はありますが、ほとんどは出版社に返品することができます。

 

出版物の場合は、

出版社の新刊を仕分けして各書店に発送。既刊も注文に応じて、自社の在庫や出版社から取り寄せて書店に発送。同時に返品を受領し、出版社ごとに仕分けして戻す。またそれに伴う納品・請求ほか各種書類の発行や精算の業務を行う。

それが取次です。

 

「台灣友善書業供給合作社」というのは、台湾における取次の一つで、基本的な業務は日本のそれと変わりありません。

その成り立ちや、特殊性については対談の方で説明されています。また、台湾の取次事情についても、対談で触れられています。

 

それ以外で、日本と台湾の大きな違いとしては、値引きの有無があります。

日本は定価制。台湾は値引き販売が可能です。

 

『台湾書店百年の物語』の242〜243ページに、書店のピンチという文脈で「委託販売制度」が取り上げられており、日本語版では以下の注釈を追記しました。これは編著者である台湾独立書店文化協会に質問をして得た回答から日本の読者向けに編集したものです。

若干専門的にはなってしまいますが、「台灣友善書業供給合作社」が設立される背景にはこのような問題がありました。

 

「日本の出版業界で「委託」とは主に月締めで納品数から返品数を控除した金額で精算すること(月締め精算)を指すが、ここでの「委託販売制度」は一定期間商品を委託し、その間の売上数で精算する方法を意味する。本来、後者の「委託販売」は小売有利の契約なのだが、委託期間は個別契約となるなど交渉余地も多い。二〇〇七年~二〇〇九年ごろに取次の統廃合が起こり取次の規模が拡大、加えて大型書店・ネット書店が台頭したことで、規模の大きな小売店がより有利な条件で契約を結ぶことになった。結果、出版社の資金繰りが悪化し、短期的な売り上げを求め、編集期間が短くなる、類似本の出版が増えるなどの影響が起こった。加えて、交渉力の低い中小規模の出版、小売店の経営にも悪い影響を与えることになった。」

 

台湾においては、卸値が低い方が値引き力がありますので、一般の読者は安い方=大型店に集中してしまいます。

日本は定価販売ですので、台湾ほど大きな差は出ませんが、実は取次と書店間の卸値、サービスには差があり、同じ本でも手元に残る利益は大型店の方が大きくなります。(あくまで一般論で実態は千差万別です)

 

さて、このような状況を背景にしつつ、

対談内で中小の書店は取次と契約を結んだり、十分な品揃えをするのが難しい、という話が出てきます。

こちらは主に「送料」と「取引規模」≒「大型店との販売量の差」が問題となっていて、この点は日本も台湾も状況は同じです。

 

遠隔地、日本で言えば東京・大阪から離れるほど。台湾では台東など島の東側の地域は、送料が高くなります。そのため、同じ規模の売上高でも東京都内は取引できるが、沖縄では送料が高くなってしまうので割に合わず取引できない、というような営業上の判断が働いてしまいます。

また、一回で送る荷物の量が多ければ多いほど、こちらも送料が低くなります。個人の宅配便利用でも、所定のサイズまでなら1冊でも10冊でも送料はかわらない。それと同じです。

 

ですので、小規模な小売店はそもそも契約が難しい。遠方、あけすけに言ってしまうと、田舎だとさらに難しい、ということになります。

 

これらの課題を背景に、「台灣友善書業供給合作社」についてお伺いしたのが今回の対談の一つの主題です。

 

 

以下は、対談をお聞きいただかないと意味がわからない部分で、

内容的も余談となりますが……。

 

筆者(松井)が、

「書店の共同仕入れは日本でもある」

としているのは「NET21」という団体のことを指しています。2001年ごろより、複数の中小書店が共同で仕入れ交渉を行なっています。

同社サイト:http://www.book-net21.jp/index.html

 

また、

「共同仕入れから取次に発展した例は……、厳密に言えばあるけれど。まぁないと言っていただいて良いです」

とした「厳密」の部分は

「子どもの文化普及協会」

同社サイト:https://b2b.kfkyokai.co.jp/shop/

を指しています。絵本の共同仕入れから始まり、現在では日本の中小書店では欠かせない取次となっています。

詳細は「HAB 本と流通」(弊店刊)に詳しいです。

加えて、共同仕入れが取次に発展するケース、は実は取次業の発生としては非常にスタンダードなもので、たとえば戦前の取次「北隆館」は明治24年に、北陸三県(福井、石川、富山)の販売業者たちが、新聞・雑誌の到着があまりにも遅いことをなんとか解決しようとして、共同で仕入れ部門を立ち上げたことから始まっています。

現代では稀少ですが、取次業の興りとしては、とても自然な理由からの創業とも感じられますね。

 

 

以上。補足でした。

より対談をお楽しみいただけますと幸いです。